介護士にとって腰痛は職業病のひとつといえるものです。多くの介護士がこの腰痛に悩まされており、日ごろから対策が大切になってきます。
腰痛がひどくなると日常生活にも支障が出てしまい大変です。実際にどのくらいの介護士が腰痛に悩まされているのでしょうか。
腰痛に悩まされる介護士
腰痛は職業病の中でも頻度の高い病気です。
厚生労働省によると、仕事中の負傷による疾病と腰痛の発生率は、全ての業種での腰痛の割合が62%と多いですが、介護を含めた保健衛生業では85%と腰痛の発生頻度はほかの業種より20%以上も多くなっています。
別の調査では働く上での悩みとして身体的負担が大きいと答えた介護士は約30%にのぼりました。
このような調査結果から多くの介護士が腰痛に悩まされていることがわかります。
腰痛の原因とは
介護士が腰痛に悩まされる原因は以下の通りです。
動作要因
重いものを持ち上げたり、長時間同じ姿勢で作業することをさします。高齢者の方を持ち上げ車いすなどに移す、おむつ交換では前かがみでケアをする、入浴介助では背中を反ったり、腰をひねるなど不自然な体勢を取るなど、腰に負担がかかります。
介護士の業務上、これらの動作は切っても切れないものです。同じ体勢で長時間もケアをしたり、腰に負担がかかる回数が多かったりすると、より腰を痛めやすくなるでしょう。
前かがみ・中腰の姿勢
介護士は、利用者のおむつ交換や体位交換、入浴介助、トイレ介助などで前かがみや中腰になる機会が多いため、その都度腰に負担がかかります。
腰をひねる姿勢
介護士が利用者の隣に座って介助を行う食事介助では、要介護者の方に体を向けることで、必然的に腰をひねる姿勢になるため、腰に負担がかかってしまいます。
持ち上げる動作
利用者を車いすからベッドに移動する際や入浴、トイレの際、利用者を持ち上げる移乗介助は、介護業務につきものですが、腰に負担がかかり、腰痛につながりやすい動作といえます。
長時間同じ姿勢でいる
長時間にわたり立ったまま、あるいは座ったままなど、同じ姿勢でいると腰に負担がかかります。介護職の場合、長時間立ち仕事を続けるケースが当てはまります。
環境要因
風呂場などの濡れた床や不安定な場所、トイレのように狭い場所が原因として挙げられます。介護施設では基本的に暑さ・寒さの対策が取られているのですが、バックヤードが散らかっており、安全な移動が難しいといったケースで、腰痛が引き起こされることもあります。
個人的要因
厚生労働省によると女性の介護職のうち70%が40代以降です。また、60歳以上の方も20%近くを占めています。年齢を重ねると、体の不調が出やすくなります。加えて、女性は男性に比べて筋肉量が少ないため、筋力量不足と加齢によって腰を痛めやすくなっています。
心理的要因
腰痛は身体的な負担だけではなく、心理的な負担にも影響します。心理的な負担とはストレスや長時間勤務などが挙げられます。他にも介護士としての責任や人間関係の負担も関係しているのです。
介護士の腰痛はこれらの要因が複数にわたって関与して発症します。腰痛になる原因を極力減らし、腰痛を起こしにくい環境を整えることが必要です。
介護業における腰痛対策
腰痛を防ぐには介護業務中、意識することが大切です。
移乗介護のポイント
移乗介護では利用者の残存能力を活かして協力してもらうことが大切です。複数のスタッフで連携をとり、1人当たりの負担を減らすのも有効です。他にもスライディングシートや移動式リフトなど、福祉用具を適宜活用して、介護職員の負担を軽減します。体への負担にならないように工夫しましょう。
入浴介助のポイント
入浴介助では滑り止めマットを活用することで、万が一利用者が転倒しそうになっても負担の少ない体勢で支えられます。介護者の体が冷えてしまうと筋肉が固まり、腰痛の原因となってしまいます。暖房で脱衣室を温めておき、入浴後すぐに着替えられるように着替えを用意するなど、冷え対策を行いましょう。
排泄介助のポイント
排泄介助は利用者を待たせないように焦りから力任せになってしまいがちです。力任せは腰痛の原因になるため、利用者を早めにトイレへ誘導することが大切です。衣服や下着を着脱する際は、車いすや便器に座っているときに上げ下げすると腰への負担を軽減できます。
腰痛を悪化させないためには
ストレッチは効果がある?
腰痛予防にはストレッチが効果的と聞きますが、実際どうなのでしょうか。中にはストレッチをしているけど効果が感じられないという方もいるかもしれません。
しかし、ストレッチは腰痛予防に効果的なのは事実です。
どうしてかというと、アスリートはけが予防のために練習前後、ストレッチを行っているように、体の筋肉をほぐすために欠かせないためです。
特に長時間の同じ姿勢や無理な体勢をとることが多い介護職は、筋肉が固まりやすく疲労が蓄積されるため腰痛を引き起こしやすい状態といえます。そのため、介護士がストレッチを行うことは、腰痛を予防するためにとても重要なことです。
ただし、効果があるのは正しいストレッチに限ります。ストレッチを行っても症状が改善されない場合、自分流で行い筋肉がほぐれていないためでしょう。正しいストレッチを習得しましょう。
正しいストレッチを習得するためにおすすめの方法として、整骨院などの先生から教わることですが、わざわざストレッチを教えてもらうために行くのは面倒ですよね。
そこで、整骨院の先生が配信しているストレッチの動画です。YouTubeなど自宅で簡単にできるストレッチ動画が配信しているので、正しいストレッチを家にいながら覚えられます。
太もも前方のストレッチ
太もも前方の筋肉は大腿四頭筋といい、骨盤の前側についています。大腿四頭筋が固まってしまうと骨盤が前に引っ張られてしまうため反り腰となりやすく、腰痛の原因になります。
ストレッチの方法は、以下の順番で行いましょう。
- 立って片方の手を壁などに置いて体を安定させる
- もう片方の手で足の甲をつかみ、膝を曲げる
- 足のつま先がお尻につけるイメージで持ち上げる
体側のストレッチ
普段あまり使わない筋肉のため固くこわばりやすい部分です。腰回りが重く感じたときに体側をストレッチすると血行がよくなり腰も楽になります。
以下の流れに沿って2~3回行いましょう。
- 両手を頭の上で組む
- 息を吐きながら体を真横に倒す
- 脇の下から体の側面が伸びているのを感じながら30秒キープする
- ゆっくり体を戻す
姿勢を見直す
腰痛になりやすい方は介護職の負担以外にも、腹筋や背筋、太ももの筋肉が弱まり、猫背や反り腰など日常的に姿勢が悪く腰に負担をかけている場合があります。
普段から正しい性を意識して、こまめに体を動かし持久力や筋力をつけることが大切です。
反り腰になってしまう理由は、日常的に姿勢が悪いことが原因です。重心が前方に偏った立ち方だと、バランスをとるために体が自然と重心を後ろにしようとし、結果反り腰になってしまいます。
立ち方の見直しを行い、姿勢改善を目指しましょう。まずは正しい立ち方を知り、実践することから始めてください。
- 横から見て足から頭までまっすぐになるように立つ
- 重心はかかとから土踏まずあたりに置くよう意識する
- 親指の付け根、小指の付け根、かかとの3点へ均等に体重を乗せることを意識する
- つま先から少し外側に向けてお尻に力を入れる
- お腹に力を入れる
まっすぐ立つ歳は、耳たぶ・肩・股関節・くるぶしが一直線になるのが正しい姿勢です。鏡の前で立ってみて、きちんと一直線になっているか確認するといいでしょう。
反り腰の人はつま先に重心が偏りがちなので、重心をかかとから土踏まず当たりに置くことを意識してみてください。
腰痛ベルトやコルセットを使う
腰痛があるときは腰痛ベルトやコルセットを使うのも一つの方法です。腰痛ベルトやコルセットは、腰部を固定することで腰への負担を軽減し、痛みを生じにくくするものです。
ただし、常時つけていると腰回りの筋力が弱くなってしまう恐れがあるため、痛みがある場合だけ使うようにしましょう。また、サイズがあっていなかったり、つけ方が間違っていたりすると、かえって腰痛が酷くなってしまう恐れがあります。
産業医に相談するか、整形外科を受診してみて、自分にあうものを処方してもらうことをおすすめします。
腰に負担がかかりやすい介護職も、姿勢を意識したり、体のケアをすることで腰痛の予防や緩和することができます。無理なく介護を行うことは、利用者の負担や事故等のリスク軽減にもつながります。
腰痛の症状が出てしまう前に、また悪化させないためにも、ぜひ意識して取り組みましょう。
痛みがひどい場合、休むことも大切
腰痛がひどくなった場合、仕事を休むことも大切です。介護職は人手が足りない事が多く、腰痛を我慢しながら無理して働いている方もいます。しかし、以下のような症状が出た場合、我慢せず休んだほうがいい場合もあります。
- 安静にしても激しい痛みが生じる
- 腰に激痛が突然現れる
- 痛みを感じる部分が腫れている
- 足に力が入らない
- 発熱している
これらに該当する腰痛の場合、危険である可能性が高いため注意したほうがいいでしょう。職場に相談して休み、早めに医療機関へ相談することをおすすめします。
腰痛で労災認定を受けるには
業務で腰痛になった場合、原因が業務であると証明できれば、労働災害(労災)として認定されます。休業が4日以上の場合、労災認定されると労災保険によって休業補償や治療費の支給が受けられるので、なるべく早く申請したいところです。
休業4日未満の場合、事業者が従業員に対して休業補償しなければなりません。
申請方法は、労働基準監督署または厚生労働省のホームページで請求書を入手し、必要事項を記載後、労働基準監督署に提出する必要があります。補償の種類によっては、受診した医療機関の診断書が必要です。
事業者が本人の代わりに請求書の記入・提出をしてくれる場合もあるので、職場の管理職や事務担当者に聞いてみましょう。